生徒会の一存――碧陽学園生徒会議事録1――著:葵せきな

たまには、ギャグで笑えるようなものが読みたいなと思い、話題にもなっているので読んでみた作品。
主人公、杉崎鍵は美少女だらけの生徒会の副会長で黒一点。ギャルゲーエロゲー大好きで自分はこの生徒会でハーレムを作るんだといって憚らないような破天荒な性格で、当然他のメンバーからは路端の石のような扱いを受けている。子供っぽい会長とクールで悪女な書記、男勝りでボーイッシュなもう一人の副会長に彼女の妹で男性恐怖症でBL好きな会計。この五人が繰り広げる日常を綴った作品。

とても楽しめた作品でした。まず、作者自身「四コママンガみたいに読める小説」を目指して書いたというように、ものすごくさくっと読める。キャラクターのノリとか会話のテンポとかを作者さんが完全に分かってる感じがします。西尾維新の会話ほどの破壊力はありませんが、それでも掛け合いだけでも十分に楽しめるというのは素晴らしい。
それと、何より自分にとって、この主人公は(客観的に見てダメすぎるけれど)とても共感できるかっこよさをもったヤツだった、ということが大きい。この杉崎のように、ギャルゲー大好きだから現実でもギャルゲーみたいな状況目指すぜ! というのは相当ダメな発想、というか何より美少女ゲーマー(こう書くと美少女のゲーマーみたいだ。まあいいか)が蔑まれる一番分かりやすい思考回路だったりすると思いますが、ある意味、この思考は悪くないんじゃないかと思うのです。
作中で主人公の杉崎は自分がギャルゲーにはまった経緯として、過去に義妹と幼馴染に挟まれて結局どちらとも破綻してしまった、という過去があります。それを告白した杉崎は当然「この駄目人間!」と生徒会の面々から罵倒されるわけですが、ギャルゲーを傷心の杉崎にうっかり勧めてしまったのが現会長だった事が判明し、なんとも気まずい雰囲気の中、それでも杉崎は会長に感謝します。自分に指針を与えてくれてありがとう、と。杉崎は自分のやったギャルゲーについてこう語ります。以下、ちょっと長い引用。

「そうは言いますけど、あの頃の俺には結構衝撃だったんですよ、アレ。特に……ハーレム系の展開になるものは、カルチャーショックだったんです。ああ、こんな展開もあるんだなぁって。荒唐無稽だけど、でも、皆が微笑んでいられる未来は、ちゃんと、あるんだなぁって」
「……杉崎……」
「特に、ギャルゲの主人公って、どういうわけか俺と似た状況なの多かったから。義理の妹とか幼馴染とか居て。三角関係になって。軽くドロドロして」
「…………」
「でも……悔しいんだけど、アイツら主人公と来たら、十中八九、最後には幸福を掴みやがる。ホント……俺、何度泣いたことか。あぁ、どうして俺はこうなれなかったんだろうって。どうして俺は……二人を、ちゃんと、幸せにしてやれない、情けない俺だったんだろうって。だから、俺はそれで決めたんです。俺は……『主人公』になるって。たくさんの女の子を平気な顔で幸せにする『コイツらの側』になってやるって」
(中略)
「皆好きです。超好きです。皆付き合って。絶対幸せにしてやるから」

僕はこの台詞に痺れた。最高にかっこいいじゃないか、と。全てが冗談になってしまうようなコミカルな作品中の台詞だからこそ、余計にこの言葉は光ります。冗談という皮肉を挟むことでそれでも肯定したいという強度を持つからです。それは美少女ゲーム批評で行われている肯定の形とはまた違ったものだと僕は思います。もちろん、ツッコミどころは多々あります。そんなの男のエゴだろうとか。だけれど、それでも皆を愛せる人間になれるように努力する、ゲームの『主人公』になるために努力する、という姿勢は悪いことじゃないと思います(これもひょとするとエゴなのかな?)。
それでも、ねーよwというツッコミは自分でもしたいくらいですが、少なくとも、美少女ゲームに憬れる、というのは、わざわざアンビバレントな感情にならなくても結構素朴にしてもいいことじゃないかなぁと思うのです。