桜庭一樹『私の男』

 今回の直木賞受賞作。主人公、花とその父でもあり、「花の男」でもある淳悟との物語。桜庭一樹の作品で、おそらく一番インモラル。だけど不思議とそれが感じられないのはあまりにもそれが純粋だから。人間臭さは無いかもしれないけれど、その無機質で無邪気で退廃的な雰囲気は私は好きだ。
 この物語の仕掛けとして、時系列が逆に進んでいく、というのが一つの特徴。最初、花が結婚するところから話が始まって、そこで提示されるいろいろな謎が物語が過去にさかのぼっていくにつれて次第に明らかになっていく、という構図は読んでいて面白いところの一つだ。その点、この話はミステリ的でもある。だが、それは作品の主題ではなくて、あくまで描かれるのは「花」と「淳悟」の関係。
 この作品に限らず、桜庭一樹が上手いのは世界の雰囲気の作り方だと思う。「砂糖菓子」にしても「GOSICK」にしても「赤朽葉家」にしてもリアルな世界を書いているようでリアリティが感じられない。そんな不思議な世界を桜庭一樹は作る。特に不思議なこともおこらない(GOSICKにはあるか…)し、描写もどうみても現実なんだけれど、読んでいてその現実は夢の中のようにぼやけて見える。
 直木賞の選評に、次に何が出てくるかわからない、という記述があったけれど、多分桜庭一樹の書く世界の根幹ははこれからも変わらないと思う。もちろんそれでいいのだけれど。

私の男

私の男