ファミリー・ポートレイト 著:桜庭一樹

直木賞受賞後初の書き下ろし長編小説。「家族」と、そして「小説家」の物語。
ひょっとすると、後々、「家族三部作」みたいな形で呼ばれるのかもしれない、なんて妄想をしてみたくなる。『赤朽葉家の伝説』で桜庭一樹の作中にくっきりと現れた「家族」というテーマを、『私の男』を踏まえて、この作品でさらに昇華させた印象を受けた(正直、僕は『私の男』に対して少々懐疑的(本当にこれを書きたかったのか)だったのだけれど、僕のとても失礼な邪推だったと言うことがわかった)。また、今作を読んでこの「家族」というテーマが「砂糖菓子の弾丸」からずっとあったのだなぁと改めて気づかされた。僕は桜庭一樹の書く「少女」の姿にとても注目していたのだけれど、ここに来て作中で描かれる「家族」に圧倒された。「少女」と「家族」はずっと結びついてはいたのだけれど、ここに来て、僕には「少女」に隠れてあまり見えてこなかった「家族」というテーマが大迫力で目の前に現れたのだ。さらには桜庭一樹自身の小説観、というものがそこに入り込んできて凄みがさらに増してきてもう「やばい」と思った。久々にいい読書体験をしたと思わせてくれる作品だった。
なんというか、桜庭一樹の「倫理観」(という言葉は多分正しくないのだけれど)が特に全面に押し出された小説だったと思う。そして、桜庭一樹の小説を僕が好きな理由はその「倫理観」を惜しげもなく出し切る点にあるんだろうな、と思った。世間ではタブーとされているような領域に足を踏み込んでそれをさらけ出す。そこに暴力的に説得され、さらには惹かれてしまう恐さが桜庭一樹の小説にはあると思う。だけれど、読者である僕は、決してその領域に足を踏み入れることはなく、おそらく一般的な良識というもので蓋をして見なかったことにしてしまうのだろうな、と思い、どこか寂しさを感じてしまう。
とりあえず、桜庭一樹のこれまでの作品の中で最高傑作であることは間違いないと思う。果たしてこれ以上何か書けるんだろうか、と思うくらいに。

ファミリーポートレイト

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