境界線上のホライゾン1上下 著:川上稔

日本と世界の国々がリンクした上で歴史をやり直している世界で、終末から世界を救うため、そして一人の少女を助けるためにみんなが頑張る話。
相変わらず、凄い。下巻は700P以上あったのだけれど一日で読めてしまった。描写の迫力、台詞回しの上手さなどは前作『終わりのクロニクル』をしっかり踏まえたうえで洗練され、飽きさせない展開とスピード感は本の厚さを感じさせない。今回もやはり圧倒されてしまった。
『都市シリーズ』『終わりのクロニクル』ときて、三シリーズ目の今作だが、シリーズを重ねるごとに、物語のスケールが大きくなって来ているのかなぁと読んでいて思った。『都市シリーズ』ではあくまでその都市という小さな世界における状況に対し、個人、特に主人公がどう動くか、ということに対して焦点が当てられていた。それが、『終わりのクロニクル』では話のスケールが小さな世界が集まった大きな世界における状況となったが、それでも話の焦点はあくまでその状況のために「個人」がどう動くか、だった。しかし、今作『境界線上のホライゾン』では物語のスケールは『終わりのクロニクル』と同様、大きな世界の状況(とはいえ『終わりのクロニクル』は別の概念を持っている本当の意味での「別世界」同士が集まった上での大きな世界だったことに対し、『境界線上のホライゾン』ではあくまで基盤となる世界は一つだけのため、その点ではスケールは少々小さくなっているといえるかもしれない)がテーマだが、今回は個人ではなく、一つの国が主体となって物語が動いているように思うのだ。それは、『終わりのクロニクル』の主人公佐山・御言が「悪役」を名乗っていたことに対し、今作の主人公葵・トーリが「王」を目指すと明言していることからも伺える。モチーフにしている時代が戦国時代、ということもあるかもしれないが、今作では架空戦記的な要素がかなり強く感じられた。トーリという王と、ホライゾン(ヒロイン)という姫を中心に、宰相、騎士、武将、などの役回りの人々が最初から揃っている、というまさに一つの国を象徴する構図はこれまでの作品には見られなかったものだ。
だから、今回はある意味では非常に分かりやすい話だ。『終わりのクロニクル』では常に佐山は自分が間違っている、ということを意識していて、「正しい」「間違っている」ということが一つのテーマだったのだが、今回はそのような葛藤は無い。「勝ったらそいつが世界を救う、だからそいつが王様だ」と第一巻においてはっきりとトーリは宣言してしまっている。そこにあるのは「強いものが正義」という戦争の論理である。国対国の争いがテーマであるならば確かにこのくらい分かりやすくならざるを得ないだろう。
終わりのクロニクル』のような自意識の問題があらかじめ解決されてしまっている(ように見える)のは個人的には少々物足りないのだが、しかしながら『終わりのクロニクル』でそのテーマは解決したのだからそれは今回は問われるべきものではないのかもしれない。
まあ、どちらにしろ、また壮大で心躍る物語が始まったことに変わりはない。今度はどのような世界を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。