ソフィーの世界(ヨースタイン・ゴルデル)

この小説は、主人公ソフィーがある日「あなたはだれ?」「世界はどこから来た?」と言う手紙を受け取るところから話が始まる(それとともにヒルデという謎の女の子に対する誕生日メッセージも受け取る)。ソフィーがその問題に頭を悩ませていると、その次の日、その匿名の手紙の主から、「哲学講座」とかかれた手紙が届く。その日から、名も知らぬ哲学者とソフィーの不思議な哲学講座が始まった――。
僕がこの本に始めて出会ったのは中学生の頃だった。最初のギリシア三大哲学者のあたりまではなんとか読めたのだが、当時は(世界史の知識がさっぱりだったせいもある)、それ以降のヘレニズム期になったところから急にわからなくなり、結局途中で放り出してしまった。
そして、5年後の今、ようやく読み終えることが出来た。なんというか、感無量である。
さて、この小説は哲学ファンタジーという奇妙なジャンルの小説だ。物語の流れは、ソフィーと手紙の主(途中でソフィーは彼の居所を突き止める)との哲学講座が中心となる。その講座は「哲学とは何か」と言う問いかけから始まり、古代から順に哲学史を追っていく。中学生でもなんとか理解できる程度に(僕は挫折したが)とても解りやすく書かれているので、それだけでもとても面白い。しかしながら、それと平行して、ソフィーがその手紙の主、アルベルトと出会う頃から、ソフィーの周りには不思議な出来事が起こり始める。彼女にはヒルデという謎の女の子宛の手紙が届き続け、さらには彼女の犬がいきなり話し出したり、鏡の中の自分が自分にウインクしたり、アルベルトが自分の名前をヒルデと呼び間違えたりする。そしてそれらの出来事は、どうやらヒルデの父親である少佐の仕業であるということがアルベルトの口から語られるのだが、それでもソフィーに対しての具体的な説明はまったくなく、ソフィーは混乱し、不安に陥る。
以下ネタバレにつき注意(十年以上前の出版なので今更ネタバレも何もないかもしれないけれど)
そして、そんな物語の中盤、いきなり物語の視点がヒルデに変わる。そしてヒルデに誕生日プレゼントとして父親から紙がいっぱいにはさんであるバインダーを受け取る。そのバインダーには『ソフィーの世界』という題名が書いてあった……。
ここで、『ソフィーの世界』が作中作であることが明かされる。哲学の講義が中心でそんな気配が一切感じられなかったこともあり、それだけでも驚きなのだが、さらにすごいのはこのメタフィクションの構造自体が哲学的な思考を読者に促していると言う点である。いや、むしろ、メタフィクションと言う構造に自分がいることを想像することが、一種の哲学的思考なのだ、と言うことに気付くことができると言ったほうが適切かもしれない。
最後には、ソフィーとアルベルトはその作中のソフィーの世界からも抜け出し、永遠の存在になる。そしてきっと、ここでの「永遠」と言う言葉も何かを示唆しているに違いない。
最初から最後まで計算ずくで、「哲学」と「物語」の両方の面白さを味合わせてくれたこの小説は、五年前のリベンジという以上にとても面白く、素晴らしい作品だった。もし自分に子どもができたら真っ先に子どもの部屋の本棚に入れたいw
もう何度か読み直して、その構造の上手さに唸りながら、しっかりと内容を把握したいと思う。

ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙

ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙