スプライトシュピーゲル、オイレンシュピーゲル(冲方 丁)

これは、これから起きるかもしれない、いや、もしかするともう既に起きているかもしれない世界の戦争と戦う少女達の物語である。

文章は読みにくい。一文あたりに大量の情報が圧縮されているため、うっかり読み流すと今何がどうなっているのかがわからなくなってしまうからである。この小説の文章はあまりにも記号的で、速すぎる。
だが、わかりにくさを差し引いたとしても、この小説が持つドライブ感はすさまじいものがある。まるで高速道路の標識を次から次へと眼で追っていくような感覚だ。全てを追っていくのはとても大変だが、その速さのままにカタルシスに連れて行かれる感覚は格別のものがある。id:kaien氏も『コードギアス』の速度。 - Something Orangeで言及していらっしゃったが、この速さゆえのカタルシスというのは確かに存在すると思う。

だが、この小説の本当に凄いところはそんな文章を、「現実」を物語の舞台にすることで薄っぺらなものにしていない点である。
小説の世界での世界状況は現実と酷似し、彼女達が立ち向かう事件はまさに現実で起こりうる出来事だ。テロ、虐殺、戦争、etc……。そんな世界の暗部を真正面から描いている。それゆえに、この小説は一種の独特で切実なリアリティを持つ。そして、そのリアルな戦争の中で自分達の傷と向き合いながら戦う少女達の姿は切実に心を打つのである。

両シリーズとも後二巻で完結(スプライトにそう書いてあったから多分オイレンもそうだろう)。最後までこの高速道路をドライブしていきたい。